はじめに
冬の降雪シーズンは、賃貸オーナーにとって特に注意が必要な時期です。入居者の安全を確保するためには、適切な雪対策が不可欠です。万が一、積雪が原因で入居者がケガをしてしまった場合、賃貸オーナーとしてどのような責任を負うことになるのでしょうか?
この記事では、実際の事例とともに、賃貸オーナーが知っておくべき雪対策や法的義務について詳しく解説します。
賃貸物件の管理において、雪かきを含めた安全対策をどのように行うべきかを理解することは、入居者満足度の向上にも繋がります。この記事を参考にして、入居者とのトラブルを未然に防ぎ、安心・安全な賃貸経営を目指しましょう。
積雪が起因するトラブル事例と法律的見解
事例を見てみましょう。
ある管理会社が管理するアパートで、降雪後に積もった雪が踏み固められ、入居者が転倒して骨折してしまいました。その入居者からは、物件オーナーの不備でケガをしたとして、治療費の負担を求められました。
このようなケースで、賃貸オーナーはどのような責任を負うのでしょうか?弁護士の法律的見解を紹介します。
まず、本件に類似する裁判例である令和4年仙台地裁判決を確認すると、以下の2つの点が争点となりました。
除雪・徐氷の義務
裁判では、マンション管理組合に対して「除雪・徐氷の義務があったか」が争点となり、最終的に義務なしと判断されました。
理由としては、当日の降雪量が少量であり、除雪・徐氷をしないと駐車場から車を出せない状況ではなかったとされています。
注意喚起および滑り止め等の提供の義務
一方で、マンション管理組合には「注意喚起や滑り止め等の提供義務」があると判断されました。
具体的には、転倒防止のために通常の靴に装着可能な滑り止めや融雪剤を提供し、注意喚起を行う義務が認められました。
この判例を基に考えると、賃貸オーナーや管理会社には、雪かきや除氷の義務そのものはないと解されるものの、入居者への注意喚起や滑り止めの提供といった安全配慮義務が求められる可能性があります。
また、入居者にも過失が認定される場合があり、上記の事例では、滑りにくい靴の着用や慎重な歩き方を怠った入居者の過失が75%と認定されました。
このように、賃貸オーナー側にもある程度の配慮が求められる一方で、入居者の責任も問われることがあるのです。
賃貸物件における雪対策の具体例
では、賃貸オーナーとして、具体的にどのような雪対策を行うべきでしょうか?
以下にいくつかの対策を紹介します。
契約書に明記する
まず、契約書に「雪かき」の責任分担について明確に記載することが重要です。積雪が多い地域では、入居者が雪かきを行うことを契約書に明記することが一般的です。これにより、どちらがどの部分の雪かきを行うかが明確になり、トラブルを未然に防ぐことができます。
備品や融雪剤の準備
雪かき用のスコップや融雪剤を物件内に準備しておくことも大切です。これにより、緊急時に迅速に対応できるようになります。物件の共用部分に設置しておくと、入居者も使用できて便利です。
保険の利用
万一の場合に備えて、保険に加入しておくことも重要です。例えば、火災保険に付随する個人賠償責任保険は、賃貸オーナーが入居者に対して負う可能性のある損害賠償リスクをカバーします。
安全配慮と注意喚起
事前の安全対策も不可欠です。
降雪が予想される際には、メールや掲示板で入居者に対して注意事項を告知するのが有効です。具体的な対策としては、以下のような内容を含めると良いでしょう:
- 雪が降った際の注意事項
- 滑りにくい靴の着用推奨
- 緊急連絡先の案内
このような対策を講じることで、入居者の安全を確保し、万が一のトラブルを未然に防ぐことができます。
また、賃貸オーナーとしての責任を果たすことで、入居者からの信頼も得られるでしょう。
実際の運用
さて、上記は「賃貸人」と「賃借人」という立場に基づいて記述いたしました。
しかし、実際に「賃貸人」であるオーナーは、管理会社に委託しているケースがほとんどで、雪が降ろうがお任せしているので、ノータッチの場合がほとんどでしょう。
とわいえ、何十棟、何百棟と管理を受けている管理会社が、各入居者に注意喚起、物件への対応をこなすのは実際は、困難であると考えられます。
このようなケースで、賃貸オーナーが管理会社を選ぶ基準のひとつは、管理会社が、入居者用のアプリなどで、一斉に降雪に関する注意喚起などを送信できる仕組みを持っていることが挙げられます。一般に「入居者アプリ」などといわれますが、これがあれば、降雪の恐れがある場合に、入居者のスマホに通知が行くわけです。
近年、雪が降ることの少ない地域でも突然の大雪が降るケースもあるので、こういったケースも念頭に入れることがリスクヘッジになりますので、参考にしてください。
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